航空機開発の本当のところ【MRJ初飛行後に知っておきたいこと】

Category : MRJ
-初飛行は単に事の始まりなだけ-

先日、MRJがようやく初飛行した。ここまでの道のりは本当に長かった。初飛行の予定は5度延期され、「今度こそ確実」と思われた10月末という予定すら11月の今週に延期された。操舵部品を改修するとのことだったが、次々に延期を強いる逆境を乗り越え、見事に初飛行を果たした意義は大きい。

果たしてこれで順調に開発が進むのか。初号機のANAへの納入時期は17年の4~6月とアナウンスされており、あと1年半での納入となる。787の初飛行が2009年12月15日、納入が2011年9月25日だったことを考えるとその間、2年弱だ。またA350の例を見てみると、2013年6月14日初飛行、2014年12月22日。その間約1年半である。そう考えると初飛行から納入まで2年弱というのは妥当な線である気もする。

MRJが初飛行したと言ってもそれは始まりなだけで、これから最大の難関であるTC(Type Certification:型式証明)取得というプロセスが待っている。僕はそうそう簡単には進まないと思っている。TCの本場である米国に試験機4機を送り込んで、加速度的に試験を行ってしまおうというのが三菱の戦略であるが、経験の少ない日本企業が経験豊富な米国の土壌に行ったとしても、どれだけ早くTCを取得できるかというのはやや疑問が残る。欧米の機体のように簡単には行かないはずだ。

せっかくの祝福ムードの最中にトーンダウンする意見を言ってしまうのが申し訳ないが、典型的な飛行機の形をしていて、エンジンが付いていて舵が正しく動けば飛行機は飛ぶ。語弊を恐れずに乱暴な言い方をさせてもらえば、「とりあえず作った飛行機」が初飛行をするということはごく当たり前のことなのである。

航空機の開発に携わったことがある者ならば知っている。初飛行の後がいかに大変かを。飛行機を初めて飛ばすことと、飛行機を製品として世に送り出すということとの間には想像を超えるような高い壁が立ちはだかっているのだ。

飛行機が飛行機であるが故、飛んでみて初めて分かることが沢山ある。想定していなかった不具合が次々に発覚し、予想外の事象が次々に起こる。設計通りの動きをしない。思ったよりも性能が出ない。それを一つ一つ丁寧に修正していかなければならないのだ。

例えて言うならば、初飛行しただけの機体は中身のないプラモデル。外回りだけはちゃんとして見えるが、中身は意外とスッカラカンであることが多い。しかし製品となれば中身もちゃんと作られた精密なホンモノの飛行機なのだ。精密なホンモノの製品としてリリースするためには、飛行後に出た事象を全て潰していかないといけないのだ。


-初飛行用に仕立てた機体かも-

ここからは若干の想像の世界、それも悪い方への想像が入るが、初飛行を行った機体は、初飛行のためにだけに仕立て上げられた機体である可能性がある。初飛行を行った機体はそもそも未完成な機体であるということだ。「XXX」という装置がまだ取り付けられていないとか、「XXX」の部分はまだソフトウェアが組み込まれていないとか、「えっホント?」と言いたくなるような仕上がりで初飛行を行った可能性も大いにある。

2度目、3度目の飛行がいつになるか、その間がどれだけ空くかということでその辺りを見極めることが出来るはずだ。初飛行の数日後に飛ぶのならば、飛行機として結構完成していることを意味する。ここで1~2ヶ月空いてしまうと問題は深刻である。やはり初飛行しか出来ないような仕上がりであったということである。

2度目、3度目の飛行に限らず、次の飛行までの日数が空いてしまった場合は、大掛かりな改修を行っている場合が多い。ただ、飛行試験というものはそんなものなので、良識あるマニアの方たちは「全然飛ばねーじゃねーか」などと文句を言わないで頂きたい。「文句を言うならオマエやってみろ」ってな感じだ。

「航空機の開発」というものは大体が1回飛んで立ち止まり、1回飛んで立ち止まりの繰り返しである。立て続けに飛んだと思ったら数週間、はたまた数ヶ月ドックイン。そんなことはザラである。それがちゃんとした製品を世に届けるための正常なプロセスなのだ。


-全ては乗客の安全のため-

杭打ち偽装マンションの問題が未だに巷を騒がせているが、あの問題の遠因は顧客からの「納期厳守」という無言のプレッシャーにもあると思う。僕らは文化的に「納期を守らない会社はダメな会社」と思っている。誰が決めたわけでもなく、僕ら日本人の根底にある一種の考え方のようなものだ。しかし、納期ありきで物事を考える場合には、杭打ち不正マンションのように手抜きをされるリスクを顧客側が負わないといけないのだ。

その点飛行機は偉い。これまでにも何度納期を遅らせたことか。その都度、顧客に対してちゃんと説明をして納得してもらっている。そこには本来のモノづくりの正しい姿が現れているように思う。もし飛行機の世界で納期厳守が行われたら、その後飛行機事故が頻発することになるだろう。それだけ飛行機の開発というものは慎重に行われているのだ。飛行試験が遅れる、納期が遅れることはむしろそれだけちゃんと仕事をしている証なのである。

再度言うが、MRJが初飛行後全然飛ばないと文句を言ってはいけない。そんな人が周りにいたら是非とも言ってあげて欲しい。「アンタ、手抜きで作られた飛行機に乗りたいか?」と。手抜きが一切ないからこそ飛行機はこんなにも低い事故率で世界を飛んでいるのである。飛行機が乗り物の中で最も安全と言われるのは、納期ありきではなく、乗客の安全ありきで開発を進めているからである。冒頭に書いたTCの取得というのはちゃんと品質を守られて作られていますよというお墨付きなのだ。

その辺りの事情を理解したうえで、温かくMRJの飛行試験を見守って欲しいものである。開発が遅れるのは、会社に能力がないからではない、飛行機というものは将来の乗客となる僕らの安全を何よりも優先して作られているからなのだ。



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